その悩み、お坊さんに聞いてみよ!【お寺の子育て相談室】④

この記事は2025年11月3日に作成および更新したものです。
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子どもの発達、友達関係、パートナーとの役割分担、仕事との両立......。
情報があふれる現代でも、子育ての悩みは尽きません。
むしろ、情報に振り回されて何が正解かわからなくなることも。
そんなママンペール世代が抱える子育てのお悩みについて、広島のお坊さんにたずねてみました。
はるか昔から人々の心に寄り添ってきた仏教に、子育てがちょっぴり楽になるヒントがあるかもしれません。

▼この記事を読んで分かること
◎子育ての中で感情的になってしまう理由。
◎自分の視野を広げる具体的な方法。
◎お経に学ぶ子育ての心構え。

この記事を読めば、子育ての悩みについてのヒントがきっと得られるので、ぜひ参考にしてみてください。

1.子育ての悩みにお坊さんが寄り添います

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「仏教」と聞くと、一般的には法事やお葬式などのイメージが大きいのではないでしょうか?
でも、本来仏教は、「今を生きる人々」の悩みや苦しみを解決するために生まれたもの。
私たちの持つ「常識」や「世間の価値観」を一歩離れ、別の視点からものごとをとらえ直すことができる教えです。
今回は、そんな仏教にたずさわるお坊さんに、子育ての悩みを相談してみました。
読むうちに、自分の子育てについての気づきや、ハッとするような言葉に出合えるかも!?

2.今回のお悩みは……

この記事では、ママンペールライターが、SNSなどを通じて子育て中のママパパからお悩みを募集。
その中からピックアップした質問を、お坊さんに投げかけてみました。
さて、今回のお悩みは......!?

保育園の先生に対して感情をぶつけてしまいました。あの時どうすればよかった!?

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今回のお悩み:
「保育園の担任の先生から、息子の様子について、お迎えの時に毎日報告をいただきます。
それが、最近ネガティブなものばかりで(集団行動ができていない、指示が通りにくいなど)、先日ついに我慢できず先生に感情をぶつけてしまいました。
息子はやや発達面で不安があり、私自身もそのことを気にして疲れていたため気持ちを抑えられず……。
それ以来少し先生と気まずくなっています。どうすればよかったでしょうか」(30代女性)

3.お坊さんからの回答

今回の質問に答えていただくのは、広島市中区にある「とうかさん圓隆寺」の住職、中谷康韻(こういん)さんです。
大学では仏教学や心理学などを学び、またお寺で悩み相談にも応じています。
プライベートでは二児の父親であり、ご自身の子育て経験も踏まえてお話を聞かせていただきました。

「こうあるべき」から解放されると、心が軽くなる

―今回のご相談は、保育園の先生との関係について。思わず感情的になってしまったことを、後悔しているようです。

まず、思ったことを伝えたという点については、ご自身を評価してあげてほしいと思います。
もし表現の仕方がまずかったのであれば、今後変えていけばいいですし、ほかの先生に相談してみるのも一つの方法です。

次に、感情的になる理由を考えてみましょう。
私たちは、誰しも相手に「こうあってほしい」という理想を抱きます。
そのとき、理想と現実との間にギャップが生まれると、怒りや悲しみが生じるのです。
今回の場合は、きっと先生の言動が、相談者さんの理想と違っていたのではないでしょうか。
でも、その理想って、少し厳しい言い方かもしれませんが、あくまで「自分にとって都合のいい姿」ではないでしょうか。
先生も人間ですし、忙しい日もあれば余裕のない日もあります。
そのことを思い出すだけで、少し気持ちが落ち着いてきますよ。

子育ては「人間に向き合う」という修行

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―相談者さんは、子どもの発達のことで何か悩みがあったようですね。

そうですね。私にも幼稚園児の息子がいるので、状況はお察しします。
また、実際に今回のご相談のようなシチュエーション、つまり感情的になった保護者さんと先生とのやり取りを目の当たりにしたことがあります。

ここでひとつ考えたいのは、親というのは、子どもが生まれた瞬間から立派な親であるわけではないということ。
子どもとの関わりのなかで、少しずつ“親にさせてもらう”存在なんです。
子育ては、いわば「人間に向き合う」という行為。
ましてや、まだ自我の確立していない小さな人間が相手ですから、思いどおりにならなくて当然。
もう、これはとんでもない修行です(笑)。

―なるほど、たしかに修行ですね。親としてどんな心構えでいればいいのでしょうか?

子どもが成人するまでは、親はただ養うだけの存在ではなく「導く存在」だと思います。
例えば、お子さんが大きなけがを負って体が不自由になったとします。
その時、原因や責任を追究するのも大事ですが、この先希望を持って生きていくためにはどうすればいいかを考え、導くのが親のつとめではないでしょうか。
子どもの人生について、無責任ではだめだし、束縛しすぎるのもいけません。
バランスを取りつつ、その子が一人前にやっていけるようにサポートする……なかなか大変な仕事です。
そこで役立つのが、いろんな親と交流して自分の視野を広げることです。

意識的に親同士で交流し、視野を広げて

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―なぜ、いろんな親と交流することがよいのでしょうか?

人間は、ほかの生き物と同じように「経験の動物」だからです。
本を読んで理想の子育てを学ぶよりも、実際にいろんな人と関わって、『こんな家庭もあるんだ』『こんな考え方もできるんだ』と知ることで、大きな学びを得ます。
いまの社会は、人と関わらなくてもある程度生きていくことができる。
だからこそ、意識的に他人と交わっていかないと視野は広がりません。
保護者会やPTA、地域行事など、忙しくてもやってみることは親としての成長に役立ちます。
視野を広げることで、目の前の相手が「自分の理想」と違っても、落ち着いていられるようになると思います。

子が親を導くこともある――お経に学ぶ子育ての心構え

―親として成長する、というのは簡単なことではないですね。

確かにそのとおり。でも、親が常に“上”である必要はないんです。
お経のなかには、お釈迦さまが“提婆達多(だいばだった)”という弟子に導かれたという場面があります。
提婆達多はお釈迦さまのいとこで、のちに対立する関係になる人ですが、過去世では逆に提婆達多が師となってお釈迦さまを導いたと説かれています。

これは親子関係にも通じると思います。
先ほども言ったように、親は最初から立派な親ではなく、子どもとの関わりによって少しずつ親になっていきます。
そういった意味で、親が子を導くだけでなく、子が親を導くこともある。
このように考えれば、親子は主従関係ではなく、互いに敬い合う関係になれる。
また、自分もまだまだ親として成長中なんだと思えば、気張らずにいられますよね。

辛いことのない人生はつまらない

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―子育ての悩みは尽きませんが、前向きに受け止めるにはどうすればいいでしょうか?

実は、お釈迦さまも悩みながら生きた一人の人間でした。
たくさんのお経が残っているのは、それだけ多くの人に向き合い悩んだ証拠。
順風満帆な人生は、案外思い出に残らないかもしれません。楽しいこともあれば辛いこともある。
そんな振れ幅があるからこそ、人生は豊かになるんだと思います。

私にとって、お経は人生の教科書のようなもの。
お釈迦様は、その内容を教えてくれる先生です。
仏教が生まれて2500年以上経っていますが、人間の本質はきっと変わっていないでしょう。
であれば、お経に説かれている教えは現代を生きる私たちにも役立つはず。
もし何か困ったことがあれば、とうかさんを訪ねてみて下さいね。

4.まとめ

・相手に理想の姿を求めるから苦しくなる。
・子どもを育てることは、人間と向き合うこと。
・意識的に人と交流して視野を広げることが大事。
・楽しいことも辛いこともあるから人生は豊かになる。
・お経は人生の教科書。

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【回答いただいたお坊さんのご紹介】
中谷康韻/とうかさん圓隆寺住職
広島に夏の訪れを告げる風物詩、「とうかさん大祭」で有名な圓隆寺の住職。
令和3年から役職を引き継ぎ、日々の勤めにはげんでいる。
お祭りがにぎわう一方で、もっと圓隆寺の「寺としての姿」を知ってほしいとの思いから、仏教伝道の場としての活動を積極的に広めている。
●とうかさん圓隆寺ホームページ
https://toukasan.jp/
(担当ライター:いづみ