子どもの“発想・考える力”を育む『アートの世界』

アートの世界
多くの言葉を持たない一方、
創造力や発想力に優れた幼児期は絵画や音楽などの
アートに触れるのに最適な時期。
そこには、「我が子の才能を伸ばしたい」
「美的センスを磨きたい」だけではない重要性もあるようです。
今回は、自身も画家として活動しながら、
芸術活動を積極的に取り入れた『アート保育』を
実践する「アトリエREIレイこども舎」の
岡本園長にお話を伺いました。


岡本礼子さん


アート(芸術)を日常に取り入れることは子どもたちにどんな影響を与えるの?

幼少期の子どもたちにとって、絵を描くということはただの遊びです。ですがその時、思い出したり、想像したり、時には過去の記憶を呼び起こすといった様々な情報を脳で処理しながら、色や形で置き換え、周囲に見える形で表現しています。手だけを見れば一瞬のことのようですが、脳はあらゆる刺激を受け、フル回転しているのです。こうして鍛えられた脳は、「考える力」を養っていきます。
当園の『アート保育』でも、まずこの『アートシンキング』を大事にしています。さまざまな色や形、素材に日々ふれることや芸術にふれることで、子どもたちは「見方は色々変えられる」ことをインプットでき、それは多角的な物事の見方につながります。幼少期の段階でこのインプットができれば、大人になって仕事を始めたとしても豊かな企画力を発揮してくれるはずです。
また、アートにふれることは『美意識』を育てることにもなります。形や色を揃えるあるいは分けることで子どもたちは日々遊んでいますが、遊びの中で自然と「こっちの方が美しいよね」という感覚を身につけていきます。命令ではなく、遊びの中で美意識を養っていくことが大事なのです。
例えば給食。大人目線だと食器にはついつい割れにくいプラ容器を選んでしまいがちですが、陶器など素材の異なるものを使わせることによって、子どもたちは素材の違いを知ります。銀杏切りにしたニンジンに「イチョウの葉っぱと同じ形だね」と言葉を添えてあげることで、子どもたちの想像力は膨らみます。アート目線で身の回りを見渡すことで、子どもたちのアンテナは広がり、物事の些細な変化にも気づくようになるでしょう。大人は、そうした環境を用意してあげるだけでいいのです。


描画、音楽、ダンスそれぞれが養うチカラ

アートが子どもたちに与える影響について、当園が実践する『アート保育』の描画、音楽、ダンスで具体的にお話しします。
まずは描画。何もない真っ白な紙に線を入れ、ゼロだったものを1にするのは、実はとても勇気のいることです。起業する時のイメージと似ていますね。この時、クレヨンや鉛筆、筆などの画材も自分で選ばせることが大事です。また、子どもは自分の中にあるものしか表現できないので、普段から色々な刺激を与えていきましょう。描画はどこでも好きな時にできるのも魅力です。ぜひこの点を活かし、子どもたちの小さくて大きな勇気の一歩を見守ってください。
次に音楽。音域の限られるデジタルの音に対して楽器の生の音には限りがないと言われます。実際、子どもたちは私たち大人よりも音の違いをよく聞き分けています。ピアノの鍵盤をただ叩いて出た音と、意識して強く叩いて出た音、その違いを幼少期に身につけることによって、今後は自分自身の力でさらに聞き分ける力を獲得していくはずです。
ダンスについてもユニークです。先生がコンテンポラリーダンスを始めると、子どもたちは自然と真似をし始めます。「あの踊り方を真似したい」「それにはこうしよう」と、自分の見えているものを自分の体で意識的に動かしていくのです。教えられた動きではないので、主体性と集中力が養われていきます。
色の違い、音の違い、動きの違い。これらがわかると「自分ならどうしよう」と一度飲み込んでから表現することが可能になります。


『アート保育』の1コマ
『アート保育』の1コマ。この日は画用紙に思い思いの絵を描きました。正解はありません。何を描くかも絵の具やクレヨンなどの絵具も自分達で決めます。


家庭で、日常生活の中でできること

海外では、子どもたちだけで美術館を回るなどアートとの距離が日本よりも近いです。当園でも美術館へのハードルを下げてほしいとの思いから、1歳から美術館へ親子遠足へ行っています。親は何も言わなくていい、子どもが感じたままでいいと思います。また、年に一度ギャラリーで作品展も実施しています。これは展示して終わりではなく、親子でギャラリーまで来てもらい、子どもたちが一番気に入って飾った絵を褒めてもらう、そこが完成形です。私自身、絵というツールによって人間として強くなったと思います。ぜひママ・パパには子どもが嬉しくなるような言葉かけで、子どもの中のプラスのイメージが広がるようにしてもらいたいですね。
アートに限らず、料理でもフラワーアレンジでも他の趣味でもいいと思います。人気のキャラクターではなく、親の大好きなもの、それに夢中になっている姿を子どもに見せてあげてください。何もないなら今から始めてみてもいいはずです。「ママ(パパ)はこれが大好き」「ぼく(わたし)はこれが大好き」とそれぞれのアイデンティティーを育み、子育てに対しても少しだけ余裕が生まれるかもしれません。





おすすめ美術館3選
「アートは子どもにはわからないよ…」
「子どもが騒がないか心配」というパパママ。
授乳室やオムツ替え台があったり、
子ども向けのワークショップもあったりする美術館は、
とっても身近な親子で楽しめるスポットです。
ぜひ気軽に訪れてみてください。


【おすすめ1】広島県立美術館

乳幼児から小学生まで利用しやすいサービス

乳幼児向けに授乳コーナーや幼児用トイレの他、ミルク用のお湯も提供しています。混雑していなければベビーカーでの鑑賞もOK。また、小学生以上向けにはジュニア鑑賞ガイドブックを作成し、作品の見どころを楽しくわかりやすく紹介しています。世界に6体しかないうちの2体を鑑賞できる同館のシンボル的存在の「色絵馬」は、子どもたちにも人気の愛くるしさ。また、縮景園に隣接しているので、鑑賞前後のお散歩もオススメです。


ジュニア鑑賞ガイドブック
ジュニア鑑賞ガイドブックはマンガで美術館を楽しく紹介。主に小学生以上向けに無料配布中です。
個々で楽しめるワークシートも配布予定
子ども向けの鑑賞ツールとして、夏の所蔵作品展では、個々で楽しめるワークシートも配布予定。
1階女性用トイレに個室タイプの授乳コーナーを設置
1階女性用トイレに個室タイプの授乳コーナーを設置。オムツ替えシート、ベビー専用チェア、調乳用水栓を利用できます。


・特別展&イベント情報・

《「ふしぎなのり」『はじめてであうすうがくの絵本1』より》-
安野光雅美術館コレクション
安野先生のふしぎな学校

会期:2022年7月8日㊎~9月4日㊐ ※会期中無休
自然あふれる津和野での幼少時代に空想をめぐらせながら過ごした経験から、数々の作品を生み出した画家・安野光雅。本展では、画家として独立する前の教員時代に着目し、「安野先生のふしぎな学校」として授業の科目に見立てて紹介します。

《「ふしぎなのり」『はじめてであうすうがくの絵本1』より》
1982年 ©空想工房


DATA-広島県立美術館


【おすすめ2】ひろしま美術館

みんな大好き!「こぐまちゃんえほん」の世界を楽しめる特別展を開催中

広島市内中心部にある丸いドーム型の展示室が特徴の美術館。「ムーミンコミックス展(21年)」や「ちびまる子ちゃん展(20年)」「かこさとしの世界展(19年)」など、毎年世代を超えて楽しめる特別展を開催しています。そんな同館で5月15日まで開催中なのが、「こぐまちゃんえほん」でおなじみ「絵本作家・わかやまけんの世界」。親子揃ってあの絵本の世界を楽しめます。


しろくまちゃんのほっとけーき

こぐまちゃんカプチーノ
館内のカフェ・ジャルダンでは、「わかやまけん展」特別メニューも提供。写真の「こぐまちゃんカプチーノ」(¥506)の他、売り切れ必至の「しろくまちゃんほっとけーき」もあります。
ポケット付きメモ各種
「《Rollbahn》ポケット付きメモ各種」(¥900)など、展覧会オリジナルグッズも充実。


・特別展&イベント情報・

絵本作家・わかやまけんの世界

会期:2022年3月19日㊏~5月15日㊐ ※会期中無休
「こぐまちゃんえほん」を描いた、絵本作家・わかやまけんの創作の全貌を紹介するはじめての展覧会。累計発行部数が1,000万部を超えるロングセラー絵本シリーズ「こぐまちゃんえほん」から、『こぐまちゃんおはよう』『しろくまちゃんのほっとけーき』などの初公開を含むリトグラフを一挙に公開し、1970年に誕生した「こぐまちゃんえほん」の魅力と秘密に迫ります。また、『きつねやまのよめいり』「おばけのどろんどろん」シリーズなど、「こぐまちゃんえほん」とは大きく作風が異なる絵本のリトグラフと原画も展示します。


DATA-ひろしま美術館


【おすすめ3】東広島市立美術館

公園隣接の新しい美術館

2020年11月、東広島市内中心部に移転オープンした美術館。国内外の優れた美術作品を紹介する展示をはじめ、1982年から続く「現代絵本作家原画展」などを行っています。子ども向けのマナーカードを受付で配布し、イラストなどで分かりやすくマナーを伝え、裏面では美術館の建物に関するクイズにも挑戦できます。目の前には西条中央公園が広がるため、来館前後の外遊びもしやすい環境です。


絵本の読み聞かせ
「現代絵本作家原画展」では、作家さんへメッセージはがきを送るコーナーや絵本の読み聞かせも行っています。
シュモーおじさん


・特別展&イベント情報・

コレクション展 第Ⅰ期 あこがれの先に

会期:2022年5月31日㊋~7月24日㊐
作家が抱く“あこがれ”に焦点をあてたテーマで展示。新収蔵品として「びじゅチューン!」でおなじみの井上涼さんなどの作品も公開。また親子の対話型鑑賞イベントも開催予定。


第35回現代絵本作家原画展 戸川幸一郎展

会期:2022年7月30日㊏~9月25日㊐
広島ゆかりの絵本造形作家戸川幸一郎の“こどもの表現”をテーマとして独自の世界観を紹介。


DATA-東広島市立美術館